東京高等裁判所 昭和46年(う)1349号 判決
被告人 鍋島隆一
〔抄 録〕
所論は、原判決が証拠とした証人常富靖雄の公判準備における供述および皆川博匡の検察官に対する供述はいずれも証言能力のない者の供述であるに加え、後者は刑訴法三二一条一項二号の要件を具備しない証拠能力のない証拠を有罪認定の証拠とした点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反があるというので考えてみるのに、記録によれば証人常富靖雄は本件事故を目撃した当時満四才、証言時満五才の幼児であり、同皆川博匡は本件事故の当時において満五才に一五日満たず、検察官に対する供述時において満五才七か月、証言時において満五才九か月の幼児であることが認められるところ、かかる幼児の供述であつても供述事項によつては一概に証言能力を否定すべき理由はなく、簡単な事柄についてはかなりの程度の理解ならびに表現の能力があり、記憶力もあると解されるところ、証人常富靖雄は原判示の日時、場所において友達の皆川博匡ら四人と一緒に遊んでいた際、皆川が原判示場所で倒れて起きあがろうとしたとき、たまたま後退してきた被告人運転の米屋トミヤの車がバツクしてきて皆川博匡にあたつて同人がまた倒れたところを目撃した体験にもとづき、約半年後に現場付近において行なわれた裁判官の尋問に際し供述しているのであつて、その証言能力に欠けるところはなく、また、皆川博匡の証言能力についても同様に解されるところ、原判決が証拠とした同人の検察官に対する供述調書によれば、同人は、原判示の日時、場所において常富靖雄ら四人の友達と遊んでいた際、駆けてきたところを友達に押されてうつむきに転んで起きあがつたところへ前記の自動車が後退してきたので「止めて止めて」といつたがそのまま車の煙の出るところ(マフラーのこと)がぶつかつて上向きに倒れた旨供述しているのであるが、これに対し、同人の公判準備としての証言は、その内容に前後くいちがう供述部分などがあることからみると、幼児である同人がその場の雰囲気に影響されて十分な供述ができなかつたような事情も窺われるから、直接同証人の供述を聴いた原裁判所が、検察官に対する供述を公判準備における供述よりも信用すべき特別の情況があるとして採用したことも首肯することができる。それゆえ、原判決が右検察官に対する供述調書に証拠能力を認めたことも正当であるから、論旨はいずれも理由がない。
(中野 寺尾 粕谷)